セミナー講師は、これまで自身が培ってきた分野に関する知識や経験を分かりやすく整理して伝える場であると共に、自分のフィロソフィーを検証する絶好の機会です。
プレゼンするテーマによっては、新しい知見などを適宜盛り込んでブラッシュアップする必要もあることから、世の中の最新情報を調べて学ぶきっかけともなります。
さらには、ディスカッションや名刺交換などで得られる参加者との接点は、新たな出会いの場ともなります。新しく知り合った人と相互に刺激し合う関係が築ければ、仕事に対するモチベーションもアップするでしょう。
ここではそうしたセミナー講師の依頼がきた時に、どのように準備し、どのような点に留意して取り組めばよいか、そのノウハウを紹介します。
セミナー講師業の依頼ルート
セミナー講師の依頼は様々なルートから入ってきます。
例えば大学や学会、産業団体、企業、人材サービス会社、ネット情報など。そのルートは多岐に渡ります。ただし、専門分野によって各ルートそれぞれの依頼頻度は異なってきます。筆者はコンサルタント業(個人事業主)でメーカー対象の技術経営に関わる分野を得意としていますが、人材サービス会社からの依頼頻度が最も高く、続いて大学、学会、産業団体、企業などが「起点」となり自分自身の人脈から話が入ってきます。
なぜ人材サービス会社のルートが多いのかといえば、その会社に登録をしておくことで、セミナーニーズのあるクライアント企業を紹介していただけるからです。クライアント企業のニーズと自分のカバー可能なテーマ分野とのマッチングさえ整えば、正式な依頼となります。
これ以外のルートが「起点」となるとしたのは、まさに文字通り、個人の人脈に端を発して、そこに参加した人から別の人への紹介で依頼数が広がっていくため。特に学会や産業団体のセミナーでは、様々な組織・職種・階層の人が参加するため、「自分のところでも同様のセミナーを実施したい」「みんなで聞いてディスカッションしたい!」などの要望が多く見受けられます。
さらに、ネット情報からの依頼ルートとは、セミナーのプログラム内容をインターネット検索で探し出していただいたり、SNSなどで流れた内容に興味を持っていただき、個人のSNS情報へ直接依頼がきたりするケースです。最近はこのような機会も多くなりました。
いずれの場合でも、実施したセミナーの反響が広がっていくことは、個人としても達成感があり嬉しいものです。そのチャンスをいかに有効に発展させて実績を積み重ねられるかで、その後の機会の「多い・少ない」も左右されるといえます。
事前の確認事項や準備の進め方
セミナーの依頼があった場合、準備にとりかかる前の確認事項として、
- このセミナーで自分への期待(テーマ)は何か?
- 参加対象層、人数はどの程度か?
- 開催日時、タイムスケジュール、場所は?
- 会場のインフラ、準備のある備品などは?
- 取り決め条件(謝礼など)の内容は?
などを、まず相手先ときちんとすり合わせておくことが大切です。
その上でどのような構成でストーリーを組み立てるか、INDEXづくりに取り掛かります。次いで、セミナータイトルと全体サマリーを考え、明文化していきます。
プレゼン資料は、手持ちのスライドがある場合には依頼テーマの内容に沿ってそれらを並べ替え、ストーリーの構成を肉付けしていきます。追加が必要な項目については、リファレンスとなる資料などを調査し、その内容を盛り込んでスライドを完成させましょう。
また、聴衆の理解を深めるための実サンプル(例:「機能フィルム」についてプレゼンする場であれば、そのフィルム実物のサンプル)の準備、ワークショップ活用なども必要であればこの段階で全体構成の中に加え、スライド枚数を調整します。
準備方法、情報収集方法
事前準備は簡単に終わることもあれば、かなり時間がかかることもあります。扱うテーマがこれまでセミナーを実施した実績のある分野であれば、一部を小修正・追加すればよく、1~2日程度で準備可能でしょう。
ところがクライアントの期待やニーズに沿って、新たなストーリーの構築や追加すべき内容が多くなれば、1~2週間程度がかかるケースもあります。
またセミナー参加者は常に最新の情報やトレンド、そして気づきを求めるものです。したがって講師の側も常に新たな学びや情報収集をしていなくては、有意義なセミナーとはなりえません。
筆者の場合、これに応えるための準備として、
- 新聞を切り抜き情報収集
- ネットニュースチェック
- 読書と付箋付け
- セミナー / 展示会 / 学会での個別情報交換活動
- 各種コミュニティー参加
などを続けています。これらから得られる情報は、通常の各種媒体情報(一般的に出回っている情報)と、それらだけでは得られない生の情報があり、セミナーのネタとして活用できます。新たにプレゼン用のスライドを追加で作成する際には、これらの引き出しから適宜ホットな内容を引き出す作業も進めます。
以上をまとめると、セミナーの物理的な準備は依頼のある・なしに関わらず、ほぼ毎日「無意識に進めている」といえるかもしれません。
当日までに用意しておくもの
プレゼン内容とスライドの最終チェックが済んだら、筆者の場合はA4用紙に4面付けで全スライドをプリントアウトし、そこに説明のポイントとなる追加のメモなどを手書きで加えます。
PCのままで持ち歩く方法もありますが、PCでスクロールするよりもアナログなこの方法の方が、いつでもどこでもストーリーを鳥瞰できる便利さがあるからです。当日使用するサンプル見本やワークショップ資料なども忘れずにチェックしておくと良いでしょう。
また、セミナー前日にはプレゼンのイメージトレーニングが欠かせません。外科医が手術前のイメージトレーニングをするのと似ていますが、私も聴衆を前に自分がプレゼンしている状況をイメージしてセミナー本番のリハーサルをします。これは本番であがったり、慌てたりしない効果、タイムキーピング効果などが期待できるからです。
別途、プレゼンをスムーズに進めるために、ワイヤレスマウス(レーザーポインタ付き)は自前で使いやすいものを準備します。プレゼンは、身振り手振りはもちろんのこと、参加者の表情や反応を常に見ながら進めると、内容が伝えやすくなります。PC目線から離れて話す余裕が大切です。
本番に注意したいアクシデント
本番当日、会場についたらまず最初に以下のようなアクシデントに備えておきましょう。
PCの急な不調
通常は起こりにくいアクシデントですが、万が一の場合には先方のPCを借用する必要が生じます。その場合に備えて、クラウド上にプレゼン資料をアップしておいたり、電子ファイルのバックアップをUSBメモリーに落として携帯するなどしておきましょう。
PCとプロジェクターのコネクタミスマッチ
これはもちろん事前確認をしておくべきですが、当日会場入りしたら改めて確認しましょう。HDMI-VGA、 USB-HDMI、VGAなどの変換コネクタはいつも準備していくに越したことはありません。
投影画像が見えにくい、プレゼン環境などの不備
セミナー現場で最終のフォーカスチェック、部屋の明るさチェック、マイクボリュームチェックなどの他、自分がプレゼンしやすい場所の確保などもアクシデント回避に繋がります。
緊張してスムーズに話せない
そして、いざ本番開始。最初は誰でも多少は緊張するものです。緊張でうまく言葉が出てこなかった、口が回らなかった、伝えたいことを言い尽くせなかった、などといったメンタリティーに関わるアクシデントはとても残念ですよね。
その対策としてポイントとなるのが、プレゼンを落ち着いてスタートさせること。必ず出だしのつかみの話(言葉)だけはきちんと決めておくと良いでしょう。参加者にとって共通のホットな関心事であったり、その先のセミナーに期待を持てたりする内容が好ましいです。
これがスムーズにいけば、あとは落ち着いてプレゼンがうまく走り出します。また参加者との双方向のコミュニケーションを活性化し、飽きないセミナーにするために、適宜講師からの問いかけや、全員参加型のワークショップなどを取り入れ、理解を深める工夫をしていきましょう。
予定時間をオーバーしてしまう
事前準備をしたといえども、本番は環境が違うのでタイムオーバーとなってしまうアクシデントも起こり得ます。よく後半にスライドをどんどん流して早口で説明する講師がいますが、これはあまり好ましくありません。参加者が消化不良を感じてしまいます。
予定時間をオーバーしないために、話を一部カットしても全体のストーリーに影響の少ないスライドを事前に選別しておけば、その場で慌てることがなくなります。伝えるべきことは、きちんと落ち着いて話すことが肝要です。事前のイメージトレーニングの際にこれを考えておくことで対応できます。
終了後にしておくと良いこと
セミナーで参加者がどの程度理解できたか、どのような感想を持ったか、どのような質問・疑問があるか、などは限られた時間の質疑応答やディスカッションでは必ずしも十分に把握はできません。
ですので、セミナー後に簡単なアンケート用紙を準備して配布・回収するのがベターです。当然、このアンケートに対する質問・疑問に答えを返す場合には多少の手間が追加でかかります。しかし、これは以降のセミナー内容や説明の仕方をより充実させていくためにとても役に立つ方法です。是非、実施してみましょう。
またセミナー終了後の名刺交換により、参加者と個別に話す時間がとれるのであれば、次のセミナー講師への依頼や直接コンサルティングの要請など、新たな機会が得られるかもしれません。
結び
以上、筆者がセミナー講師という仕事に取り組む際の基本的な進め方のノウハウなどを紹介しました。ただし、これはあくまで筆者がこれまでの経験で得た「私なりのやり方」です。これを読まれた方々が、さらに独自の発想や工夫なども盛り込んで、「自分スタイルの確立」を目指していっていただけたらと思います。
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