企業から独立して活躍する技術者へ、その人生の歩みや技術者としてのキャリア形成についてリプル代表の佐藤がインタビューする本企画。今回は樹脂業界のプロフェッショナルとして活躍されている大城戸氏にお話を伺います。
プロフィール
大城戸 正治 Masaji Ookido
大阪工業大学工学部応用化学科卒業後、1974年に新卒で大王加工紙工業に入社。その後はハニー化成株式会社、新中村化学工業株式会社、ケーエスエム株式会社にて研究職に就く。
現在は株式会社大城戸化学研究所の代表として大手樹脂メーカーを含め技術顧問として活動。
現在も顧問として活動しながら研究者としてのキャリアを貫いている。
これまでの支援実績は20社以上、講演回数は約50回、公開されている特許は100件以上にのぼる。
独立前に7年かけてやり遂げた「できるわけない」
佐藤:大城戸さんの研究人生の中で一番やりがいを感じた瞬間はどこですか?
大城戸:研究歴40年以上のキャリアで、今まで紆余曲折ありました。そのなかでもその中でも一番誇りを持っているのは、やはりUV硬化樹脂の開発ですね。
今でこそ汎用的な技術ですが、当時はそんなことできるわけないと誰もが思っていましたし、開発にはおよそ7年の歳月がかかりました。
会社の研究のトップからは、そんなに時間がかかるならやめろと、何度も圧力をかけられました。しかし、この技術を完成させれば必ずテクノロジーの進歩につながる、という強い思いを持って独断で走り切りました。それが市場に評価されて、今の樹脂業界では常識になったということです。命令違反だとしても、完成して実績を出せば不問になりますからね。それが市場に評価されて、今の樹脂業界では常識になったということです。
他の樹脂メーカーも開発を競っていたなかで、成功できたことは私の研究人生で最大の喜びですね。
佐藤:UV硬化樹脂とは、何に使われるものなのですか?
大城戸:あまり馴染みのない言葉ですよね。ただこの技術はみなさんがお使いのスマートフォンやパソコンにも実は使われているんです。もう少し言うと、これらの電子機器の内部にある、電子部材に使われているものです。
佐藤:そんなに身近に使われている技術なのですね。なぜこの開発が必要とされるようになったのでしょうか。
大城戸:UV硬化技術を用いると、溶剤を使わずに作れるんです。これの何がいいかというと、溶剤を使用により環境問題発生します。UV樹脂使用により環境リスク低減になることです。そのリスクを0にできるというわけです。
佐藤:大城戸さんが確立した技術は、スマートフォン、パソコンの普及に役に立った、ということですか?
大城戸:そうですね、しかし私が貢献したのは部材、材料の提供の技術なので、全体から見ればそのなかのごく一部、微々たるものだと思います。それでも、誰もやってなかったことをやり遂げたことには自負しています。
佐藤:そういう謙虚な姿勢も大城戸さんの素敵なところですね。
特許100件以上、独立後のキャリア
佐藤:次に、現在のお仕事について教えてください
大城戸:現在は、複数の企業の顧問として活動しています。
私は取得した特許が100以上ありますので、そこから依頼をいただくこともありますし、リプルさんみたいなエージェントを通してお仕事をいただくこともあります。
佐藤:特許が100以上というのはかなりの数ですね。ちなみに、エージェントを通してお仕事をされるメリットはありますか?
大城戸:企業さんとの交渉ごとなどをお任せできることですね。
特にリプルさんは積極的に動いてくれると思います。
私はこの業界の大手さんにも登録していまして、やはり規模が大きいと機動力を活かして動けるので、お持ちの情報量が多かったり、登録されている技術者が多かったりといった点はさすがだなと。しかし、融通が利かないことも多少あります。
その一方でリプルさんは、会社の規模は大きくありませんが、だからこそというのか、小回りがきいて細かい気配りもしてくれます。紹介して終わりということはなく、その後のフォローまでしっかりしてくれるところが、特長のように感じています。
研究人生一筋のベテランから見る樹脂業界の展望
佐藤:大城戸さんからみて、今後の樹脂業界はどうなっていくと考えますか?
大城戸:そうですね、私が専門にしている高機能材料の市場は正直有望だと思います。
ただ、日本の高機能材料は機能面でとても優れていますが、それに甘んじていては日本の市場はガラパゴス化することは目に見えています。
現在の日本は、さまざまな要求物性を付与すること、つまり機能面が最優先です。
一方で欧米、中国、東南アジアでは機能だけでなくコスト意識も高く持っています。
世界市場をみて、機能、コスト両面のバランスを取っていくことが必要となってくるでしょうね。
ネバーギブアップの精神で生涯現役
佐藤:大城戸さんの、座右の銘を教えてください
大城戸:「ネバーギブアップ」ですね。
ありきたりな言葉かもしれません。しかし私の40年にわたる研究人生の根底にあるのはこの言葉です。
現状の技術に満足していては、今後の成長はありえません。また、開発というのは諦めたら何も残りませんから、継続こそが唯一の道です。
そして、誰になんと言われようととことん突き詰める、自分の考えを貫く姿勢こそが研究者としての信念です。
普通は定年退職したら隠居する方が多いですが、私はそれが嫌だ。定年しても働き続けたいですし、そういう気持ちが大事だと思います。
佐藤:一つのことを極めるのは思っているほど簡単なことではないですよね。そのモチベーションはどこから来るのですか?
大城戸:シンプルに興味からですね。お金のために働くより自分の興味のために働く、その方が人生は充実する、私はそう思っています。
まだまだ自分の技術には満足していませんし、生涯現役でありたいと思います。
キャリア形成には自分の考えを貫くことが必要
佐藤:今からキャリアを積む若手は、どういうキャリアを積むべきでしょうか?
大城戸:まず、技術職なのか一般職なのか、大手・中堅・小規模のどのサイズの企業を選ぶかでキャリア形成も全然違ってきますよね。
その中でも私は業界トップシェアを持っている中堅企業に入るのがいいだろうと考えています。大企業はやはり情報やリソース的には十分ですが、自分の考えを貫こうと思ったらかなり力をつけて発言力を上げないと叶いません。ましてや、若手のうちから発言するのはかなり難しいと思います。言ってしまえば、一種の歯車としてしか使われないと。
一方で中堅企業は、若手社員でも自らが考えて行動する傾向にあるので、まずは中堅企業に入って勉強すること、スキルを上げていくということが大切です。要するに中小企業であればそれが意外と通用すると。これも簡単ではないですけどね。でもやりがいで考えたらかなりあるんじゃないかと思っています。
私が伝えたいのは、上層部から圧力があっても流されるなということ、自分の考えを貫き通すことや、反骨精神が必要だということです。
技術者であれば、そうして開発されたものが世に出ていけば上層部は手のひらを返しますから。
研究人生40年というのは稀で、ほとんどが営業に出たり工場の管理部に行ったりします。でも私は研究をし続けたかった。自分の考えを貫くのは簡単なことではないですが、大切なことだと考えています。私は技術の経験があってこの話をしていますけど、技術職でも一般職でも根本は一緒だと思います。
生涯現役。研究人生を貫いてきた技術者の夢
佐藤:最後に、大城戸さんの現在の夢を教えてください。
大城戸:企業を退職した時には自分の研究所を作るという夢がありました。
ただ、やはりお金もかかりますし難しいですね(笑)。
私は今は国内の信頼おける企業に私の設計図により生産委託、品質管理をしていただいて開発しています。信頼おける企業があるので、そこを通じて自分のやりたい研究ができていると思います。信頼関係が最も大切であると思います。
佐藤:研究者としてのキャリアを貫いたことでその後顧問として活躍でき、その中で信頼のおける人脈が作られたのですね。
本日はありがとうございました。