独立して活躍するプロの技術者へ、リプル代表の佐藤がそのキャリアの歩みをインタビューする本企画。今回はセイコー社やソニー社、ベンチャー企業などを経て独立した、戸塚氏に話を伺います。

プロフィール

右が戸塚氏、左が佐藤

戸塚 卓志(Takashi Totsuka)

セイコー電子工業株式会社に入社し、三次元グラフィックエンジンのアーキテクトとして従事。ソニー株式会社に移り、多くの新商品研究開発や社内ベンチャー立ち上げを経験し、コーポレート研究所の所長に就任。その後、製造業の開発部門や製造部門向けのコンサルティングを行うベンチャー企業の技術担当取締役を経て、2010年に独立。東京大学工学部精密機械工学科学士、スタンフォード大学情報科学科修士。

リーマンショックの不景気時代に独立

佐藤:戸塚さんの独立のきっかけを教えてください。

戸塚氏(以下、戸塚):リーマンショックをうけて当時役員をしていたコンサルティング会社が民事再生したことがきっかけです。会社が正常な状態に戻るのを見届けてから、旧経営陣としては退任しました。そのあと、別の会社に勤めるという選択肢もあったのですが、いろいろな会社のお手伝いをした方がこれまでの経験を活かせると思い、技術士事務所を立ち上げました。

佐藤:当時、日本中が不景気になっていた中で独立に踏み切ったんですね!

戸塚:不景気といっても、製造業や技術開発が消滅したわけではないですからね。それに、私は最初の2社でその会社の新事業、新商品にずっと関わってきました。そのあと、ベンチャーでは実際に経営にも携わりました。ですから、技術戦略と事業開発の両方の視点でプロジェクトを支援できます。それを活かすには、一つの会社の中にいるより、いろいろなプロジェクトに関われる方がいいと思ったんです。

佐藤:独立をされてからの変化はどういうものがありましたか?

戸塚:自分の運命は自分で決められる、という意味でメンタルは健全になりましたかね。それから、本来は会社と個人は対等の関係なわけですけど、ずっと一つの会社の中にいると、いつの間にか「働かせてもらっている」というマインドになってしまいます。会社の外に出ると適切な距離感で会社を見られる。そういう意味でも健全になりました。

「自分たちの会社を変えよう」という志がある会社を支援したい

佐藤:戸塚さんへはいろいろなオファーがあるかと思います。支援する会社の基準はどういうものですか?

戸塚:自分たちの会社を変えようという志がはっきりしているかどうかですね。例えば、「主力事業を時代の流れに合わせて改革しよう」とか「先の時代に向けて、事業形態を根本から変えよう」という気概や覚悟をお持ちの会社さんのお話をきくと、ぜひお手伝いしたいという気持ちになります。

日本の製造業はレガシーだとか古臭いとか言われることもありますが、世界に誇れる強い技術がたくさんあります。残念ながら、AIだとかIoTだとかクラウドというような、今の文脈でその技術が活きるように変身できていないケースが多くてもったいない。そこの変革のお手伝いはやりがいがあります。

佐藤:今はどんなお仕事をされているんですか?

戸塚:基本的には技術全般を多岐にわたって見ています。ですが、技術と言っても、ソフトウェアのコードを書いたりレビューしたり、ということもやりますけれど、力を入れているのは、事業戦略にそった開発戦略を作ることですね。事業の方向に合わせて「どんな技術を作っていけばビジネスが守れるか」という作戦を立てる支援をしています。それから、請け負う案件はクライアントの組織にとって、新しい技術への挑戦になることがほとんどなので、そのチームで背伸びしながらも実行できるようにする方法も考えています。商品のロードマップをどうするかなどというのも大事になります。

「変わる」ことにチャレンジできないのが技術者の課題

佐藤:製造業の技術者にマインド面での課題は感じますか?

戸塚:製造業、特に大企業には優秀な人材が多数います。なのに、自分の仕事にしても自分のキャリアにしても、変わらなきゃと思っているものの、変われない、変わらない。そんな人がとても多いですね。会社の創業時は試行錯誤や失敗は当たり前だったと思うんです。しかし、大きく成功した商品が出ると、いつしかそれを守るのが仕事になって、失敗してはいけない文化が醸成され、挑戦が難しくなる。

個人にも似たことが言えます。新人の頃は何もわからないから新しいことを一所懸命勉強して先輩に叱られながら覚える。いつしか偉くなって社内の有識者みたいな立場になると、いまさら新しいことをゼロからやるのが億劫になる。この状態から、変わるのをいとわない文化に戻るのはとても大変です。例えば、いま流行りのAIなんて、実は勉強するのはわりと簡単なんです。だけど長年メカエンジニアだった人は、なんとなく手を出しにくい。みなさん、本当はやればできるんです。だからもったいないですよね。

若手は市場価値を高めるキャリア形成を

佐藤:変化に適応するのはこれからの時代、さらに大事ですよね。若い方こそ変化への適応が求められそうですが、例えば30代の技術者のキャリア形成はこれからどう変わってくるとお考えですか?

戸塚:自分は何のプロなのか。世間の相場と比べて、自分のプロとしてのレベルはどうか。自分のマーケットバリューはどれくらいか。という客観的な自分の認識がますます大事になると思います。そして、自分のマーケットバリューを上げる努力も大事になりますね。

今は昔よりずっと労働市場が流動的です。マーケットバリューより高い給与をもらっている状態はラッキーというより、むしろ大変危険ですね。いつ同じ給料で、もっと仕事ができる人が中途で入ってくるかわからないわけですから。

逆に、マーケット以下の給与の場合はとても健全で、いつでも辞められるけど、今の職場にいたい理由があって、自分で納得してそこにいるわけです。いつでも辞めて同じ給料を他で稼げる、という認識があれば、今の会社で安心して新しいことに挑戦できる。変化を嫌がらない、むしろ積極的に状況に合わせて自分を変えていける、という強さの源泉はここにあると思います。

佐藤:戸塚さんはどのようにご自身のマーケットバリューを形成されたのですか?

戸塚:私の場合、幸運だったのは、社会人として最初の職場がほぼ全員が中途採用で、入社年次や年齢に全く関係ない徹底した実力主義の職場だったことです。どんどん大きな仕事を任され、自分で決めていかないといけない立場になり、大変だけど勉強になりました。次にどうするか自分でテーマを考え、自分でリスクを取り、自分で解決する、というのが当たり前なことになりました。

市場のニーズと「好き」の一致が独立には重要

佐藤:流動性が高くなり、転職ではなく独立を選ぶ技術者も増えてくると思います。独立に際して重要なことを教えてください。

戸塚:多くのお客様が求めるであろうこと、つまり市場のニーズと、自分の興味があることが両立する分野を選ぶことだと思います。技術者は自分が好きなことをやらないとパフォーマンスが出ません。寝食を忘れて仕事をするというやつです。一方で、自分が好きなことだけど世間のニーズがなかったら、仕事が来ません。

もう一つ大事なのは、常に情報をインプットして技術動向を理解し、勉強し続けることでしょうね。そうやって自分のマーケットバリューを高く保つことが、会社内にいるときよりもはるかに大事になります。

佐藤:最後に、独立したい技術者に伝えたいことはありますか?

戸塚:技術者に限らずコンサルティング業務一般に言えることですが、固定費がかかるわけでもないので、最小単位は自分一人で始められます。つまり、一人でご飯を食べていくこと自体の難易度は特別高くはありません。いざとなれば再就職という選択肢も持てますし、独立をそんなに恐れる必要はないです。

佐藤:本日はありがとうございました!!

リプルが提供する、プロのものづくり技術者への顧問・スポット業務紹介サービスに登録して活躍の幅を広げてみませんか?ご興味をお持ちの方はぜひご登録ください。